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Cell Stem Cell 2022, Kaneshige, et al.

筋トレにように,筋肉に物理的な負荷をかけると筋肉は大きくなります。いわゆる筋肥大です。筋肥大のメカニズムとしては,タンパク合成系の亢進・分解系の抑制と筋線維核の増加が必要であることはわかっています。筋線維核の増加は,筋幹細胞であるサテライト細胞がその役割を担っていますが,どうやって活性化・増殖するのかについては解っていませんでした。一般的には,物理的刺激により筋線維が壊れることがサテライト細胞の活性化・増殖を誘導すると考えられていました。しかし,我々は以前の研究で,筋線維が壊れなくても,物理的刺激依存的にサテライト細胞活性化・増殖する事を観察していました (eLife 2019)。本研究では,間質に存在する筋常在性の間葉系前駆細胞が物理的刺激に応答し,Yap/Taz依存的に増殖因子を発現する事で,サテライト細胞の増殖を促進する事を発見しました。特に,間葉系前駆細胞由来のThrombospondin-1 (Thbs1) に着目し解析を行った結果,Thbs1がサテライト細胞のCD47を刺激する事で,筋損傷がない環境下でもサテライト細胞の増殖を誘導する事を見出しました。さらに,サテライト細胞の静止期シグナルであるカルシトニン受容体(CalcR)の発現低下が,Thbs1の作用には必須で,CalcR欠損マウスにCD47のアゴニストを投与すると,サテライト細胞は増殖を開始し,損傷も物理的負荷もない条件でも,筋線維核を増加できる事を証明しました。核は細胞のまさに「核」であり,老化や病気によってその質が低下します。本成果は,サルコペニア治療などに向けたサテライト細胞の新しい可能性を示せたと期待しています。

eLife 2019, Fukuda S, et al.

骨格筋幹細胞である筋サテライト細胞は,骨格筋が肥大する際に,筋線維(筋細胞)に核を供給する事で,筋肥大に貢献します。一般的に,筋線維への過負荷(筋トレ)により筋線維が壊れ,それを筋サテライト細胞が修復する結果,骨格筋が大きくなると信じられています。しかし,本当に骨格筋が大きくなるために,筋線維の損傷ー再生過程 が必要であるかは知られていません。もっと言えば,筋線維への損傷が,筋サテライト細胞の活性化・増殖に必要であるかを検討した結果もありませんでした。我々は,この論文で,筋肥大時の筋サテライト細胞の活性化・増殖・分化(筋線維への核供給)には筋線維の損傷ー再生過程 が必要でない事を示す結果を得ました。さらに,筋肥大時では,筋サテライト細胞の大部分が筋決定因子であるMyoDを発現する事なく増殖し,MyoDの発現抑制には,Notchのエフェクター分子であるHeyLが必要である事を示しました。筋再生過程では,筋サテライト細胞はMyoDを発現し,HeyLは発現せずに増殖します。つまり,我々の結果は,筋サテライト細胞の動態・分化様式が筋肥大時と筋再生時では異なることも示しました。
 

Cell Rep, 2019, Zhang L, et al.

我々のライフワークである,筋サテライト細胞の静止期維持に関する仕事です。我々は,筋サテライト細胞が細胞周期G0期(静止期)にある時のみに発現する遺伝子としてカルシトニン受容体(CalcR)を同定しました (Stem Cells 2007)。CalcRをコンディショナルに欠損できるCalcR-floxedマウスを作成し,筋サテライト細胞の静止期維持にCalcRが必要である事を発表していました (Cell Rep 2015)。今回の論文では,CalcRの下流分子に着目した結果 Protein Kinsa A (PKA) がHippo経路の主要な分子である Lats1/2をリン酸化し,その結果 Yap1の核移行が抑制される事で,細胞周期関連遺伝子の発現が抑制される事を様々な遺伝子改変動物を用いて証明しました。筋サテライト細胞におけるCalcRのリガンドはCollagen VであることをフランスのTajbakhsh博士,Relaix博士,Mourikis博士らとの共同研究により明らかにしています (Nature 2018)。これら一連の仕事により,筋サテライト細胞の維持に置いて,リガンドー受容体ーシグナル経路がわかった初めての経路となりました。

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